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2026年4月17日 金曜日
不動産の暦年贈与は損かーそれでもやる人がいる理由ー
不動産の暦年贈与は、基本的に損である。
登録免許税もかかる。不動産取得税もかかる。場合によっては贈与税もかかる。現金で贈与すればかからないコストを、あえて払うことになる。
それでも、この方法を選ぶ人がいる。なぜ、わざわざ損をするのか。
結論から言えば、不動産の暦年贈与は「得をするための手続き」ではなく、「損を小さくするための手続き」だからである。ここでいう損とは、税金ではない。将来起こりうるトラブルや制約のことである。
不動産は、持っているだけでは問題にならない。しかし、いざ相続が発生すると、一気に問題が表面化する。
まず、分けられない。現金であれば1000万円を500万円ずつに分ければよいが、不動産はそうはいかない。結果として共有になるが、共有不動産は「誰のものでもあって、誰のものでもない」状態になる。売るにも貸すにも、全員の同意が必要になるからである。
次に、納税資金の問題がある。都心の不動産は評価額が高い一方で、現金収入を生まないケースも多い。相続税は現金で支払う必要があるため、不動産を売却せざるを得ない状況に追い込まれることもある。
さらに、時間の問題もある。親が高齢になると、認知症などにより意思決定が難しくなる。不動産は所有者の判断がなければ動かせないため、売却も活用もできない状態に陥る。成年後見制度に入れば、なおさら機動性は落ちる。
こうした問題は、相続が起きてから対応しようとすると、ほとんど手遅れである。
だからこそ、生前のうちに少しずつ動かしておく。これが暦年贈与の本質である。
例えば、持分を段階的に移しておくことで、誰がどれだけ持つのかを事前に調整できる。特定の子に多く持たせることもできるし、共有状態になるとしても、その割合をコントロールできる。
また、収益不動産であれば、賃料収入の帰属を変えることで所得分散が可能になる。親が高い税率で課税されている場合には、全体の税負担が下がることもある。
さらに、将来値上がりが見込まれる不動産であれば、現在の評価額で移転しておくことで、増加分を次世代に移すことができる。もっとも、この点は市場環境に依存するため、不確実性はある。
このように見ていくと、不動産の暦年贈与は節税のためのテクニックというより、「時間を使ってリスクを分散する手段」と位置付ける方が正確である。
もっとも、デメリットも明確である。何よりもコストが重い。また、毎年の贈与には手続きが伴い、継続的な管理が必要になる。持分を細かく分けすぎれば、将来の意思決定がかえって難しくなる可能性もある。制度変更のリスクも無視できない。
したがって、この方法はすべての人に勧められるものではない。特に、資産の大半が現金である場合や、不動産の評価額がそれほど高くない場合には、無理に採用する必要はない。
一方で、不動産の評価額が高く、相続時の負担や分割の難しさが想定されるケースにおいては、この手法は現実的な選択肢となる。
不動産の暦年贈与は、一見すると「損をする手続き」である。しかし実際には、「将来の大きな損失を避けるために、今、小さなコストを払う」という判断である。
税金だけを見れば不利に見える選択も、全体で見れば合理的であることは少なくない。実務の現場では、そのような意思決定が静かに積み重ねられている。
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