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2026年1月30日 金曜日
司法書士の横領事件から考えること ― 信頼と制度、そして人間の現実 ―
先日、ある司法書士が成年後見業務に関わる横領事件により、懲役7年の実刑判決を受けたことが公表されました。それを受けて、所属会の会長名で声明が発出され、司法書士制度に対する信頼を大きく損ねたことへの深い反省と、再発防止に向けた強い決意が示されました。
この声明は、司法書士会という組織の一員として見ても、また制度を社会から預かる専門職団体として考えても、現在の制度の下で示されるべき姿勢として、極めて妥当であり、正しいものだと受け止めています。社会に対して曖昧な態度を取る余地はなく、強い言葉で遺憾の意を示し、信頼回復に努める意思を明確にすることは、会として当然に求められる責務であると考えます。
その一方で、会として示される「正しさ」と、個人として事件に向き合い考えることとは、必ずしも同じ場所に留まる必要はないのではないかとも感じています。私は司法書士である前に、一人の人間であり、この事件と声明を前にして、制度とは別の次元で考えてしまう自分がいることも否定できません。
司法書士に求められている倫理や責任、人格について、行為規範や倫理規程を改めて読み返してみると、そこに描かれている人物像は、冷静で、公正で、私利私欲から距離を保ち続ける、非常に高い理想像であるように感じます。しかし、司法書士もまた人間です。
人間である以上、迷いや弱さがあり、環境や状況によって判断が揺らぐこともあります。完璧な人格を生涯にわたって維持し続けることは、誰にとっても容易ではありません。倫理観は極めて重要であり、司法書士にとって不可欠な柱であることは間違いありませんが、倫理観だけで人間の行為を完全に制御できると考えることには、現実的な限界もあるように思われます。
不完全な人間に高い倫理を求め続ける社会は、その正しさの裏側で、少しずつ疲弊していく側面もあるのではないでしょうか。SNSなどで日常的に目にする、他人を糾弾し合う光景も、「理想的な人間像」を他者に求めすぎた結果として生じている一面があるように感じられます。そして、その不毛な緊張関係は、いずれ自分自身にも跳ね返ってくるものだと思います。
横領という重大な犯罪についても、「悪い人間がいた」という整理だけで終えてしまえば、同じ問題は形を変えて繰り返される可能性があります。人間は不完全であり、倫理観にも限度がある存在だと認めたうえで考えるならば、「より高い人格」を求めることだけでなく、そもそも横領をしづらい、あるいは横領をしても意味が生じにくい制度をどのように設計するか、という視点も重要になるはずです。実際に、成年後見制度においては、後見制度支援信託や後見制度支援預貯金といった仕組みが整備されてきました。
私はかつて、恩師から「人生は常に過渡期にある」と教えられました。この言葉は、完成や安定が存在しない世界においても、考え続け、問い続けることの意味を示しているように思います。もし人生が常に過渡期であるならば、人間は「正解を作る存在」ではなく、「問いと共に生きる存在」なのかもしれません。
会としては、今後も正しい姿勢を示し続ける必要があります。その一方で、私個人としては、不完全な人間を前提とした社会や制度を、どのように引き受け、支えていくのかを問い続けたいと考えています。その問いから目を逸らさず、考え続けること自体が、ささやかではありますが、専門職として、また一人の人間としての確かな営みであると感じています。
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