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司法書士飯田ブログ

2025年9月12日 金曜日

司法書士が直面する情報提供の葛藤  ―相続人の要望と秘密保持義務のはざまで―

先日、成年後見業務でご縁のあった被後見人A氏が逝去された。A氏には複数の相続人がいるため、私は職務上請求権に基づき戸籍謄本等を辿り、相続人全員を特定した。

その後、相続人の一人であるB氏から、私が相続人調査で取得した戸籍謄本等のコピーをすべて送ってほしいという要望があった。

私が戸籍謄本等を取得したのは、あくまで被後見人A氏の財産を相続人全員に引き継ぐという、成年後見人としての業務のためである。B氏個人との間に、戸籍謄本の提供に関する契約があるわけではない。そもそも、B氏はA氏の相続人として、自ら役所に請求すれば戸籍謄本等を取得できる立場にある。また、私が取得した戸籍謄本には、B氏だけでなく、他の相続人や場合によっては相続人以外の第三者の個人情報も含まれている。

ここに、司法書士としての職業倫理と、現実的な問題が複雑に絡み合う。

司法書士は、司法書士法第24条により、業務上知り得た秘密を他に漏らしてはならないという厳格な秘密保持義務を負う。戸籍謄本に記載された情報は、まさにこの秘密保持義務の対象である。もちろん、秘密保持義務には「正当な事由がある場合」という例外規定がある。相続手続きの円滑化のために相続人に情報を提供することが、この「正当な事由」に該当しないとは言い切れない。しかし、他の相続人の個人情報を、その同意を得ずにB氏へ提供することは、秘密保持義務に抵触するリスクを伴う。

B氏の気持ちも理解できる。相続手続きは煩雑であり、自分で戸籍を集める手間を省きたいと考えるのは自然なことだ。私が既に取得しているのだから、提供してもらいたいという要望は合理的にも見える。しかし、私の立場からすれば、軽々に個人情報を開示することはできない。相続人が遺産分割協議に際して、他の相続人に対して優位に立つ目的で戸籍を求めているかもしれないということも考えなければいけない。司法書士は中立公正な立場を保つ必要があり、特定の相続人だけに有利な情報提供は避けるべきである。

結局、私はB氏の要望に応じられない旨を回答した。今回のように、一見単純に見える情報提供の要望も、その背後には複雑な法的・倫理的課題が潜んでいる。なお、司法書士は秘密保持義務に違反すると「6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」と刑事罰もあり、その責任は重い。

批判が渦巻く現代では小さなきっかけがクレームに繋がる。最近は、どこから矢が飛んでくるかわからないと剣士のように身構えながら業務に取り組んでいる。

投稿者 リーガルオフィス白金 | 記事URL