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司法書士飯田ブログ

2025年11月3日 月曜日

信じる者は救われ…ないかもしれない ー広告社会をAIで透かして見た日常ー

4か月程前、自分の写真を見て、思わず「太ったな」とつぶやいた。年齢のせいというより、明らかに日々の食生活の問題だった。これを機に糖質制限を始めた。きっかけはYouTubeで見た北里大学の山田悟医師の話で、緩やかな糖質制限なら続けられるかもしれないと思った。結果、4か月間で4キロ痩せた。

それからというもの、街でもネットでも「糖質オフ」「低糖質」と書かれた商品が目に入るようになった。また僕のスマホは、健康系サプリの広告だらけになった。これらを毎日目にすると、段々と欲しくなってくるが「本当に効果があるんだろうか?」という疑念も当然沸く。そして「騙されたくない」という思いが強くなる。

ある時、GoogleのAI「Gemini」のdeep searchで調べてみようと思った。広告や動画をスクリーンショットに撮って、「この情報は正しい?」と聞いてみた。Geminiは、企業の情報や信頼性、商品の実態を淡々と返してくれた。中には、会社が実在しないものもあったし、口コミが不自然という回答もあった。AIを通すことで、ひと呼吸おいて、冷静に判断できるようになる。

こうした詐欺まがいの広告が、なぜSNSや検索サイトに流れ続けるのか。不思議に思うかもしれないが、少し考えれば仕組みは明白だ。GoogleもFacebookも広告収入で成り立っている。誰が何を検索し、どんな広告に反応し、何を買ったか。そのすべてが商品化されている。広告は止まらないし、フィルターもかからない。それがビジネスモデルだからだ。

仮にAIが本気でフィルターをかければ、詐欺的な広告はかなり減るはずだ。それでもなくならないのは、プラットフォーム側の都合だけではない。人間の欲が、そこにあるからだ。「楽して儲かりたい」「痩せたい」「子どもに少しでも良い教育を」と願う気持ちは、誰にでもある。その隙を突く情報は、絶えることがない。

それが悪いとも言い切れない。ただ、そういう構造の上に今の情報社会は成り立っている。信じるか、疑うかの二択ではなく、自分で確かめる。AIはその手段のひとつとして、とても便利な道具だと感じている。

職業柄、自分は契約書や登記に日々接している。「一見まともに見えるが、どこかおかしい」という直感を磨く場面は多い。その感覚は、ネットの世界でも案外役に立つ。

すべてを信じないことではなく、少し立ち止まって確かめること。その姿勢が、糖質制限にも、詐欺防止にも、共通している気がしている。

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2025年10月25日 土曜日

時代の波と事業の終焉:2025年ピーク後の日本の「事業の出口」

いま、日本の中小企業は「経営者の高齢化」という避けられない変化の波の中にある。
過去23年間で経営者の年齢のピークは47歳から69歳へと大きく上がり、小規模事業者では平均引退年齢がすでに70歳を超えている。
かつて主流だった親族内承継は4割以下にまで減少し、後継者不在という壁に直面する企業が増えている。

こうした背景のもと、休廃業や倒産といった「企業の退出」が2025年にピークを迎える可能性が高いとみられている。
その理由は、大きく二つの圧力が同時期に集中するためだ。

  1. 高齢化という“時間の壁”

まず、デモグラフィー(人口構造)の面での集中がある。
戦後の経済を支えた団塊の世代(1947~1949年生まれ)が、2025年に75歳という後期高齢者の節目を迎える。
この年齢は健康上のリスクも高まり、事業を「続けるか」「たたむか」を決断せざるを得ない時期にあたる。
まさに時間がもたらす“経営の終着点”がそこにある。

  1. 経済的なコスト圧力の重なり

次に、経済的な負担の増加だ。
最低賃金の引き上げは体力の小さい中小企業には大きな痛手となり、さらにコロナ禍で導入された金融支援策の元本返済も本格化している。
こうしたコスト圧力の中で、経営者は「損失をこれ以上広げない」ための合理的な判断として事業を終了させるケースが増えている。

実際、帝国データバンクの調査によると、2025年の休廃業・解散件数は年間7万件を超える見込みで、過去最多を大きく更新する勢いだ。
そのうち64.1%が、倒産ではなく手元資金に余裕があるうちに自ら幕を引く「資産超過型」の“余力ある廃業”とされている。
これは、経営者が冷静に状況を見極めていることの表れでもある。

ピーク後のゆくえ:高止まりする企業退出

では、2025年のピークを越えた後、企業退出の流れはどうなっていくのだろうか。
専門家の分析では、一時的に減少する可能性はあるものの、長期的には高い水準で続くとみられている。
その根本には、やはり高齢化という構造的な問題がある。

現在の社長の平均年齢は60.7歳と過去最高を更新し続けており、社長交代率は依然として低迷している。
経営者の若返りは進まず、事業承継が追いついていないのが現状だ。
さらに、団塊世代の引退後も、日本社会は高齢者人口のピークと労働力不足が重なる「2040年問題」へと向かう。
若い世代の人口減少により、後継者を見つけられず廃業を選ぶ企業は今後も多いと予想される。

また、最低賃金や社会保障費の上昇など、コストプッシュの圧力も続く。
結果として、収益が伸び悩む企業は事業継続の判断をさらに難しくしていくことになる。

今後に向けて:承継への転換が鍵

こうしたデータが示すのは、2025年の「退出ラッシュ」が一時的な出来事ではなく、
日本経済の構造が大きく変わる転換点であるということだ。
経営者たちは、事業を続けるよりも資産を守ることを選び、静かに幕を下ろしている。
それは必ずしも悲観すべきことではなく、「合理的な撤退」としての新しい時代の姿でもある。

とはいえ、この流れを少しでも前向きなものに変えるには、
「廃業」ではなく「承継」という選択肢を取りやすくする仕組みが欠かせない。
M&Aや第三者承継への抵抗感を減らし、「余力ある廃業」を「余力ある承継」へと転換する支援策が求められている。

特に、地域の産業や技術、職人のノウハウなど、時間をかけて築かれた財産が失われないようにすることが重要だ。
事業の連続性をどう守るか──その問いに、社会全体で向き合う時期が来ている。

 

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2025年10月13日 月曜日

公正証書のデジタル化が始動 —手続きが暮らしに寄り添う時代へ

これまで、公正証書を作るには平日昼間に公証役場へ行く必要があった。仕事の合間をぬって出かけ、印鑑証明を取りに役所へ寄る。実際にやってみると、なかなかの手間だ。「大事なことだから」と思いながらも、「しかし面倒だ」と感じてあきらめた人も少なくないだろう。私自身、依頼人とともに役場へ足を運ぶたびに「もう少し簡単になればいいのに」と感じてきた。

その不便を減らす仕組みが、ようやく動き出した。令和7年10月1日から、公正証書のデジタル化が始まった。

まず大きな変化は、申請がインターネットでできるようになったことだ。印鑑証明を取りに行かなくても、マイナンバーカードを使った電子署名で手続が完結する。紙の書類を抱えて役場へ行く必要がなくなるのは、実務を経験してきた者としても大きな前進だと感じる。

次に、リモートでの作成が可能になった点だ。公証人と画面越しにやり取りし、自宅や職場から内容の確認や署名ができる。体調や距離の問題でこれまで役場へ行けなかった人も、オンラインで同席できるようになった。関係者がそれぞれの場所から参加できるというのは、想像以上に心強い。

さらに、公正証書自体も電子データで作成されるのが原則となった。実印の代わりに電子署名を行い、完成した証書はデータで受け取ることができる。保管や共有が容易になり、「紙を失くしたらどうしよう」という不安からも解放される。

もちろん、リモートでの作成にはいくつか条件がある。利用者の希望、関係者全員の同意、公証人が適当と判断すること、そして法律で認められている手続であることだ。やや堅苦しく聞こえるが、要するに「本人の意思を確認し、安全に進めるためのルール」にすぎない。

完成した証書の受け取り方法も選べるようになった。紙でも、インターネット経由でも、記録媒体でもよい。電子データで受け取る場合には、パスワードを別の方法で伝えるなど、安全面にも配慮がなされている。また、養育費の取り決めや死後事務委任契約などでは手数料の軽減も予定されており、経済的な負担も軽くなる。

公正証書は、遺言や離婚、契約など、人生の節目に関わる大切な書類だ。不便さが理由で利用をあきらめてきた人がいたとすれば、その壁が取り払われる意味は大きい。

私自身も、依頼人とともに「これならできそうだ」と感じる場面が増えた。移動や時間の負担が減り、必要な制度が必要な人に届きやすくなる。制度が人の暮らしに寄り添う方向へ進んでいることを実感する。

ようやく、公正証書が「特別な人のための制度」から、「誰もが利用できる身近な仕組み」へと変わりつつある。

手続のハードルが下がった今こそ、公正証書の本来の価値、安心と信頼を形にする仕組みが、より多くの人に届く時代になった。

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2025年9月12日 金曜日

司法書士が直面する情報提供の葛藤  ―相続人の要望と秘密保持義務のはざまで―

先日、成年後見業務でご縁のあった被後見人A氏が逝去された。A氏には複数の相続人がいるため、私は職務上請求権に基づき戸籍謄本等を辿り、相続人全員を特定した。

その後、相続人の一人であるB氏から、私が相続人調査で取得した戸籍謄本等のコピーをすべて送ってほしいという要望があった。

私が戸籍謄本等を取得したのは、あくまで被後見人A氏の財産を相続人全員に引き継ぐという、成年後見人としての業務のためである。B氏個人との間に、戸籍謄本の提供に関する契約があるわけではない。そもそも、B氏はA氏の相続人として、自ら役所に請求すれば戸籍謄本等を取得できる立場にある。また、私が取得した戸籍謄本には、B氏だけでなく、他の相続人や場合によっては相続人以外の第三者の個人情報も含まれている。

ここに、司法書士としての職業倫理と、現実的な問題が複雑に絡み合う。

司法書士は、司法書士法第24条により、業務上知り得た秘密を他に漏らしてはならないという厳格な秘密保持義務を負う。戸籍謄本に記載された情報は、まさにこの秘密保持義務の対象である。もちろん、秘密保持義務には「正当な事由がある場合」という例外規定がある。相続手続きの円滑化のために相続人に情報を提供することが、この「正当な事由」に該当しないとは言い切れない。しかし、他の相続人の個人情報を、その同意を得ずにB氏へ提供することは、秘密保持義務に抵触するリスクを伴う。

B氏の気持ちも理解できる。相続手続きは煩雑であり、自分で戸籍を集める手間を省きたいと考えるのは自然なことだ。私が既に取得しているのだから、提供してもらいたいという要望は合理的にも見える。しかし、私の立場からすれば、軽々に個人情報を開示することはできない。相続人が遺産分割協議に際して、他の相続人に対して優位に立つ目的で戸籍を求めているかもしれないということも考えなければいけない。司法書士は中立公正な立場を保つ必要があり、特定の相続人だけに有利な情報提供は避けるべきである。

結局、私はB氏の要望に応じられない旨を回答した。今回のように、一見単純に見える情報提供の要望も、その背後には複雑な法的・倫理的課題が潜んでいる。なお、司法書士は秘密保持義務に違反すると「6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」と刑事罰もあり、その責任は重い。

批判が渦巻く現代では小さなきっかけがクレームに繋がる。最近は、どこから矢が飛んでくるかわからないと剣士のように身構えながら業務に取り組んでいる。

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2025年8月19日 火曜日

AIでの文字起こしが成年後見の現場で大活躍

日々の仕事の中で、会話を録音し、AIアプリで文字起こしをするようになった。これは思いのほか便利である。

私の業務では、成年後見人として医師から治療方針の説明を受けたり、施設職員や福祉関係者と情報をやりとりしたりする場面が多い。そうした中で、それぞれの分野の専門用語が飛び交うことになる。すべてをその場で正確に理解し、記憶することは難しい。

たとえば、ある方が入院された際、病名として「下肢閉塞性動脈硬化症」という言葉が医師から電話で伝えられた。耳では聞いているはずなのに、文字が浮かばない。どんな病気か、どんな処置が必要なのか、ぼんやりとしたまま通話が終わることもある。専門外の言葉は、頭の中で意味と結びつけるのに時間がかかる。

福祉の現場でも事情は同じである。制度の仕組みや対応方針について説明を受けても、すぐに理解しきれない場合がある。依頼者との最初の面談でも、こちらがゼロから情報を集める立場にある。相手も説明のプロではない。思い出した順に断片的に話されることも多く、こちらはまず話の構造をつかむのに集中せざるを得ない。たとえば5つの課題があるとしても、最初の1~2に意識が引き寄せられ、他を聞き落としてしまうことがある。

こうしたとき、録音と文字起こしは大きな助けになる。メモだけでは追いつかない量の情報が、文字というかたちで再確認できる。あとから読み返せば、そのときの状況や会話のニュアンスまでもが鮮明によみがえる。

AIは、記憶の補助だけでなく、情報の整理や要約までしてくれる。自分で頭を整理して文章化するための時間が減り、その分を他の業務に充てることができる。これは単なる効率化にとどまらず、業務の質を保つための土台にもなっていると感じる。

AIツールの利用は、まだ日本では一般的とは言えない。ある調査によれば、AIツールを「積極的に利用している」と回答した人は8.6%に過ぎず、「まったく利用していない」が61.5%にのぼるという(※1)。裏を返せば、今AIを取り入れることは付加価値になりうる。

一方で、「録音してもいいのか」という懸念の声もある。ある研修でこのAIを紹介した際、そのような質問が出た。確かに、相手の同意を得たうえで録音することが望ましいが、仮に同意がなかった場合でも、録音が違法となるわけではない。録音が訴訟で証拠として使われる場面もある。録音の手段が反社会的である場合を除き、証拠として否定されることはほとんどない(※2)。悪意や挑発を目的とするものでなければ、録音という行為自体に問題はないとされている。

AIが当たり前に使われる社会になったとき、何が変わるのだろうか。効率化という言葉だけでは語り尽くせない変化が、すでに静かに始まっているのかもしれない。

※1 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000148.000034654.html
※2 『Q&Aカスタマーハラスメント対策ハンドブック』(日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会編)

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2025年8月2日 土曜日

「神はいない」と感じた日 ― トラブルから身を守る俯瞰力―

私はほぼ毎日、近所の氏神様を参拝している。すると時折、長時間にわたって祈りを捧げている人を目にすることがある。そうした人々は、手を合わせ、頭を下げ、何かを必死に神に訴えかけている。私はその後ろで順番を待ちながら、きっと深い悩みがあるのだろうと静かに見守る。

一方で、その姿を見て「今、この人には神がいないのだな」と感じることもある。多くの人にとって、神とは天から人々を見守る存在であり、俯瞰的な視点を持つものとして捉えられている。神のような存在とは、物事を客観的に見つめることができる視点の象徴でもある。

人は深い悩みの中にあるとき、往々にして自分を客観的に見ることができなくなっている。逆に言えば、俯瞰的・客観的な視点を意識することで、多くの困難は回避できる可能性がある。

もっとも、現実には、自分の力ではどうにもならない困難──たとえば病気や災害、身近な人の不幸など──に直面し、祈らずにはいられないという人もいる。そうした切実な祈りの姿を否定するつもりはない。祈りとは、理屈を超えた人間の営みであり、無力さと向き合いながらも何かにすがろうとする心の現れである。

ただ、人生の中で繰り返される多くの対人トラブルや衝突は、自らの視点の偏りや感情の渦に巻き込まれることで生じている場合も多い。実際、トラブルの渦中にある相談者の多くは、自己の主張に終始し、相手の立場に立って物事を考えようとしないことが多い。

生きていく上で、自分を守ることは確かに重要である。しかし、他者を優先せよという意味ではなく、周囲の状況や他人の立場を理解することが、結果として自分を守ることにつながると考える。

それは、横断歩道を渡るときに左右の安全確認をするようなものである。周囲を見渡し、状況を把握することが、危険を避け、安全に生きることにつながるのである。

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2025年7月8日 火曜日

本家の嫁が背負う祭祀と遺産の不均衡:法と慣習の狭間で

本家の墓を守る立場に置かれながら、遺産は一切承継しなかった、という話を聞くことがある。たとえば、夫に先立たれた長男の妻が、義父母の介護を行い、葬儀や法要を取り仕切ってきたにもかかわらず、相続人ではないため、遺産分割協議には関与できず、何の財産的利益も受けなかったケースである。その一方で、墓地の管理や仏壇の維持といった祭祀に関する責任だけは、慣習的に引き受けるよう求められたという。

 このような状況は、法制度上も説明がつく。民法897条は、系譜・祭具・墳墓の承継、すなわち祭祀財産の承継について、次のように定めている。

まず、地域や家の慣習に従うこと。慣習が明らかでない場合には、被相続人の指定によること。指定がなければ、家庭裁判所が決定することになる。そしてこの祭祀承継者は、必ずしも法定相続人である必要はない。

したがって、血縁関係のない「本家の嫁」であっても、祭祀承継者になることはあり得る。長年にわたり家の宗教的・儀礼的行事を担っていたことが評価されれば、なおさらである。

一方で、相続財産の承継については民法の規定に従う。相続人に該当しない者が遺産を受け取るには、被相続人の遺言や死因贈与契約などによる明示的な意思表示が必要である。それがなければ、法定相続人による協議で財産が分配され、相続人以外の者は除外される。

この構造により、遺産を受け取ることはできないが、祭祀の義務だけは引き受けるという状況が生じ得る。墓地の使用料や管理費、定期的な供養の手配といった負担が、祭祀承継者にのしかかることになる。

制度的には、祭祀財産と相続財産が別の原理で承継されるため、こうした事例は法的に矛盾しているわけではない。しかし、当事者にとっては、承継と報酬、責任と権利の関係が不平等に感じられる場面がある。

このような問題を回避するには、あらかじめ遺言などで明確な意思を示すことが有効である。祭祀を託したい相手に対して、相応の財産を渡す意向があるのであれば、それを文書に残す必要がある。また、関係者間での事前の合意形成も望ましい。

最近は墓じまいをするという話も聞くが、まだしばらくは残る問題だろう。制度と現実の乖離は、どの社会にも存在する。法的には正当であっても、当事者に不満や疑念が生じることは避けがたい。そうであるからこそ、制度の隙間を見据えた対応が求められる。

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2025年6月1日 日曜日

誰かの声を借りるということ ~親子の距離感に映る、言葉の伝え方の工夫~

先日、代々木公園で娘の自転車練習に付き合った。7歳になる娘が、初めて補助輪なしに挑戦したのである。

実は冬の頃から「練習したい」と言っていたのだが、ようやく暖かくなって実行に移せた。娘は「学校で一輪車が少し乗れるから大丈夫」と自信満々だった。だが、いざ乗ってみると、そう簡単にはいかない。

私は娘の自転車の後ろを押さえながら、「ペダル漕いで」とか、「もう少し体をまっすぐに」といった声をかけていた。しかし、全然うまくいかない。私も疲れてきたので、休憩中にYouTubeで「自転車の教え方」を検索してみた。

そこに出てきた方法は、私のやり方とはまったく違った。私のアドバイスは「上から目線」の指示命令であり、YouTubeのそれは「コツの共有」に近い。そこで、私はそれ以降、「こうするといいらしいよ」と、YouTubeの“誰か”の声を借りて伝えるようにした。すると、娘も素直に聞いてくれるようになり、何より私自身がラクになった。おかげで、親子ともども長時間、気持ちよく練習に取り組めた。

これは私の趣味である占いにも通じる話だ。たまに友人を鑑定することがあるのだが、「占いではこう出ているよ」と伝えると、不思議なほどすんなり受け入れてもらえる。逆に、まったく同じことを「私の意見」として言うと、反発されることもある。

思えば、私が実家にいたころ、母親がよくぼやいていた。「お父さんは私の言うことは聞かないのに、飲み屋で聞いた話は素直に聞く」と。

家族や身近な人の言葉ほど、なぜか素直に受け取れないことがある。親から子への忠告、子から親への新しい提案。どちらも、距離が近すぎるからこそ摩擦が生まれるのかもしれない。これと似た構図は、相続対策や事業承継の現場でも頻繁に見られる。

「親に何度も言ってるんですが、聞いてくれなくて……」
「息子がうるさくて、最近のやり方ばかり押し付けてくる」

そういった悩みを、司法書士としてよく聞く。きっと誰しも、近しい人の声を一番疑ってしまう生き物なのだろう。だからこそ、外の誰かの声を借りることが、時に大きな突破口になる。

私もその「誰か」の一人になれたらと思う。それが司法書士の役割のひとつでもあるだろう。

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2025年5月8日 木曜日

登記の完了まで1か月以上かかる現状について

久しぶりに司法書士会の総会に出席した。司法書士として登録してから、気がつけば19年が経っていた。そのせいか、会場には知らない顔が増え、年長の方々の姿は少なくなっていた。少し寂しい気もするが、若い世代が会の中心で活躍している様子を見るのは、頼もしいことでもある。

さて、総会の質疑応答では、登記の処理の遅れについて、いくつかの意見が出された。

「1ヶ月以上かかるのはおかしい」「法務局にもっと改善を求めるべきだ」

こうした声が上がるのも無理はないと思う。かつては、申請から完了まで1週間程度、早ければ翌日に完了することもあった。それが今では、1ヶ月以上かかることも珍しくない。

私がこの仕事を始めた頃は、すべて書面での申請だった。法務局の窓口に書類を持参し、完了後もまた窓口に足を運んで受け取っていた。その当時は、登記の申請から完了までは2週間程度だった。その後オンライン申請が進み、書類のやりとりも郵送が主になり、登記はより迅速で効率的なものになっていった。だからこそ、いまのように時間がかかる状況に対して、違和感を持つ気持ちはよくわかる。

一方で、現状についての説明もあった。登記の処理が遅れている背景には、法務局職員の人手不足と働き方改革の影響があるという。
申請件数そのものが大幅に増えたわけではなく、相続登記の義務化による影響についても、登記の増加率は107%にとどまっており、それが直接の原因ではないという説明があった。人手不足も働き方改革も、どちらも時代の流れの中で起きていることで、今後もすぐに解消するものではなさそうだ。

だからこそ、登記の現場で働く私たちにも、できる工夫があるかもしれない。たとえば、案件ごとに緊急度を見極めて、急ぎのものは事前に相談し、余裕のあるものは無理のないスケジュールで進める。
依頼者にも、現在の状況を丁寧に説明することが大切になってくると思う。久しぶりに総会に出席し、昔との違いをいろいろと感じた。

登記制度も、社会全体の働き方も変わってきている。そんな中で、今の状況を受け入れつつ、自分にできる対応を考えていくことが、これからの実務に求められていくのかもしれない。

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2025年4月2日 水曜日

50歳で転職サイトに登録して気づいた、司法書士としての働き方と業界の限界

先月、ふと思い立って転職サイトに登録してみた。

転職を本気で考えているわけではない。ただ、自分の市場価値がどの程度なのか、そして現在の労働市場がどのように変化しているのかを知りたくなったのだ。私が就職活動をしていた頃と比べ、世の中は大きく変わっている。それを実感したかった。

実際に登録してみると、驚くほどのスピードで多くのオファーが届いた。50歳という年齢を考えれば、これは想定外だった。中には年収にして1,000万円を超える求人もあった。思わず「本当に?」と目を疑った。

この変化を実感するたびに、私は考えてしまう。

経営者でいることは、果たして今も自由なのか?

私が独立したのは15年前。「自由な働き方」を求めての決断だった。確かに、時間の使い方や仕事の選び方は自分次第だ。しかし最近では、コンプライアンスや社会的責任、風評リスクなど、かつて想定していなかったプレッシャーが増えている。そんな中、会社員として柔軟に働き、安定した収入を得ている妻の姿を見ると、「今の時代、自由なのはむしろ従業員では?」という逆説的な問いが浮かんでくる。

届いたオファーの中には、司法書士事務所や司法書士専門の転職エージェントからのものもあった。だが、提示された条件は芳しくない。エージェントに聞けば、業界全体で賃金を上げるのは難しいという。理由は明確だ。司法書士業界は、新たなサービスを生み出せていないからだ。

もちろん、業務範囲はここ数年で広がっている。弁護士が行っていた業務の一部も担えるようになった。しかし、それはあくまで“分担”であり、“進化”ではない。依頼件数が増えても、提供する価値が変わらなければ、価格に反映させることはできない。ましてや、今の若い人たちにとって、低賃金・長時間労働の業界に魅力を感じるはずもない。

一方で、他の業界ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、働き方もどんどん改善されている。人材難の中、中小企業でさえ賃金引き上げに取り組んでいる。そうした流れを横目に見ていると、司法書士業界がこのままでいいはずがない、と思わずにいられない。

業界の魅力を維持し、持続的に発展させるにはどうすればよいか。私はこう考える。

「新しいサービスを創ること」——それに尽きる。

AIやRPAの導入、オンライン相談の普及、他士業との連携によるワンストップ・サービスの提供。可能性はいくらでもある。ただ、現場がその一歩を踏み出すことを恐れていては、変革は起こらない。

司法書士という資格の価値を守るためにも、今こそ業界は変わるべきときだ。私は、そう強く感じている。

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